IoH=人のデジタル化によって
モノづくりの全体最適化を目指せ!
日本の製造業が直面する課題の一つ「人手不足」や「生産性の低下」の解決に向けて、ソリューション本部が打ち出したコンセプトが「IoH(Internet of Human)」。“人”にデジタルを活用した支援を行うことで、生産効率を上げ、真のモノづくり現場のデジタル化を実現しようという考えです。IoTで得たモノ情報とIoHで得たヒト情報を組み合わせ、製造現場の最適化を実現する活動が始まっています。

IoHのきっかけはコロナ禍に試用した
「スマートグラス」
2020年、新型コロナウイルスの世界的蔓延により海外SV※1の来訪が制限され、輸入設備の立ち上げや受け渡しに支障が生じ始めていました。その打開策に採用したのが、遠隔サポート用のウェアラブルデバイス「スマートグラス」。頭に装着し、音声操作でドキュメントの参照や写真・動画の記録・送信などが行えるハンズフリーのツールです。このデバイスを利用し、海外からの遠隔指示を受けて輸入機械の立ち上げを行いました。
ユーザーとして利用することで、その有用性と汎用性の高さを確信すると、すぐさま販売代理業務を開始しました。また機器のハード販売だけでなく個々のお客さまの課題に沿ったアプリ開発も進める中で、「IoH (Internet of Human)=人のデジタル化」というアプローチに行き着きました。
技術力の属人化と労働人口の減少がもたらす潜在的な人手不足は、日本の製造業にとって喫緊の課題です。デジタルツールを活用した的確な人員配置や作業時間の短縮、継承が困難な業務の支援など、人に対するデジタル化を行うことで一人一人の生産効率を上げ、製造現場の最適化を目指すというコンセプトです。機械設備販売という “モノ売り”だけでなく、お客さまの課題を解決する“コト売り”も柱にしようという事業の方向性も見えてきました。
※1 SV=スーパーバイザー:設備の据付や試運転の際にメーカーから派遣される指導員


「屋内位置測位」と「数理最適化」
に注力して訴求活動を推進
スマートグラスの取り組みから、製造現場の省人化などに必要とされる、いくつかのデジタル技術が見えてきました。その一つが工場内の人やモノの位置を確定する「屋内位置測位技術※2」です。
従来何十人もの人が携わっていた工場内の大規模ラインを、少人数で担当できるようにしたいという要望が寄せられました。実際の作業自体は自動機やロボットに代替させられますが、トラブル対応や一部の業務は未だ人に頼らざるを得ません。発生した箇所、作業者の位置、優先順位などからシステムが効率的な解答を導き出し、作業者のスマートグラスに指示を送ります。
もう一つ検証を進めているのが、「数理最適化技術※3」。量子コンピュータを利用して、何兆もの組み合わせの中から最適解を見出すというものです。
すでに運用されているものとして、自動倉庫におけるトラックの荷積み渋滞の解消事例があります。出荷管理システムと連携して倉庫内での最適な配置を指示し、トラックの待機時間を35%減少させました。このプロジェクトにおいても、当本部はアルゴリズムの設計などに関与しています。また、前述の屋内位置測位と数理最適化を組み合わせた配置管理システムの事例もあります。
こうした競争力のあるユニークな新ソリューションをピックアップして、お客さまに提案するという試みを順次進めています。
※2 GPSの電波が届かない屋内や地下などでも現在位置を正確に測位できる技術
※3 問題の最適化を実現するための「最適解」を問題の構造や数学的な性質に基づいて発見するという手法


製造現場のデジタル化は
IoHとIoTの融合によって実現する
私たちの強みは、お客さまとの接点が現場に近いことにあります。始まったばかりのデジタル化に関するコンサルティングに関しても、他のコンサルティング会社のように上位システムからデジタル化するトップダウン型ではなく、あくまでも現場の課題を抽出して進めるボトムアップ型が中心となり、実際のモノづくり現場に則したデジタル化を推し進めています。
またIoHへの取り組みからは、設備では解決できないお客さまの課題への提案という、対応範囲の拡大が生まれています。展示会などでも良い反響をいただき、この取り組みがお客さまのニーズと一致していることが検証されています。
私たちが目指すところは「ヒトの見える化=IoH」と「モノの見える化=IoT」がデジタル空間上でつながり、数理最適化やAIによって整理された情報やデータを人やモノへフィードバックすることで、モノづくりの全体最適化を実現するというものです。
こうした製造現場のデジタル化には、ある程度の投資が必要となるため、現在のところ体力のある大手企業が中心となっていることは否めません。しかし製造業の8~9割を中小企業が占め、その大半が人手不足などの課題を抱えていることを考えると、もっと安価で汎用的なソリューションも提供していくことで、業界全体を活性化していきたいと考えています。

(左から)株式会社インダストリー・ワン 豊田様、弊社 加藤、三菱商事株式会社 切通様